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暁の安全保障小話(1) -勝者と敗者-

掲載2014月10月1日
執筆ブロガー/暁

「回復された世界平和」

 キッシンジャーの名著「回復された世界平和」は、ナポレオン戦争後の国際秩序がいかに形成されたかを描いています。 オーストリアの、そして事実上は全ヨーロッパの首相であったメッテルニヒは、侵略者ナポレオンが敗北に瀕するや、彼を守るために同盟軍のパリ侵攻を遅らせています。単に勝利しさえすればいいのなら、ナポレオンを滅ぼすことです。ですが勝利以上のもの、戦後の秩序のことを考えれば、フランスを温存せねばなりませんでした。 ナポレオンの敗北はロシア遠征の失敗から始まったのであり、戦後、最大の発言力をもつのはロシア皇帝アレクサンダーです。 フランス軍を打ち破ったロシア軍は、そのまま西欧に乗り込んできました。中欧のメッテルニヒにすれば、前門の虎、後門の狼です。ロシアであれフランスであれ、一国がヨーロッパに号令するような事態は避けねばならない。であるなら、ナポレオンにはフランスに閉じこもってもらい、なお健在であることで、ロシアの一強支配を防いでもらうべきです。 結局はナポレオンが和平を拒否し、フランスにブルボン朝が戻ったことで、メッテルニヒはブルボン朝を相手に講和を結びました。そしてナポレオンを裏切ったタレイランの活躍もあって、フランスは欧州の大国としての地位を保ちました。革命の子たるナポレオンを除いて、フランスは現状維持側の勢力として、国際秩序に復帰したのです。 こうしてヨーロッパ世界は修復されました。敗者を処遇するにあたって、これは成功例だったと言えるでしょう。その後に生まれた数多い失敗例に比べるならば。

敗けた国は忘れない

 第二次世界大戦の種子が巻かれたのは、第一次大戦が終わったその瞬間でした。戦後の国際関係を規定したヴェルサイユ条約が、敗者ドイツに対し、あまりにも酷に過ぎました。条約を押しつけた戦勝国の側ですら、後ろめたさを感じざるを得ないほどに。 その結果、国際社会はドイツに対してまさに宥和すべきときに過酷に接し、まさに過酷に接すべきときに宥和してしまいました。過酷な処遇によって混乱するままになったドイツ社会でファシズムが発生し、ヒトラーが台頭したところで、彼を甘やかしてしまったのです。 そしてドイツは現状変革国として、国際秩序に挑戦することになりました。いい椅子をもらえないなら、いま座っている奴らを蹴飛ばして、奪うしかないではありませんか。 近くには、冷戦後のロシアの例があります。冷戦に負けてから、プーチンが立って原油が騰がるまでのロシアは、恥辱にまみれていました。 国内のことについては、エリツィンと彼のアドバイザーたちが楽観的に過ぎ、資本主義に切り替えれば何もかもうまくいくかのように思っていたことにも責任はあります。 ただし、国外のことについてはどうでしょうか。同じことをやっても、ロシアがやるのは不正であり、欧米がやるのは正義に叶ったことと見なされました。 「6年越しぐらいでコソヴォ独立の因果応報が巡り巡ってる件について」で述べられているように、上記記事で述べられているように、欧米のダブルスタンダードはあまりに露骨であり、ロシアからすれば全く不正なものでした。 また、08年の南オセチア紛争の際も、先制攻撃をかけたのはグルジアであるにも関わらず、なぜかロシアの方が悪者のように報じられ、欧米ではロシア脅威論が再燃しました。 「クリミア編入を表明したプーチン大統領の演説」には、長年の恨みつらみ、ロシアをして現状変革国たらざるを得なくした怒りが見え隠れしています。 冷戦後のロシアの遇し方は、結果的には失敗だったのでしょう。

敗者の処遇

 勝者が敗者に対してとるべき態度は、きっと2つしかないのです。メッテルニヒがフランスに対したようにするか、ローマがカルタゴにしたようにするのか。 つまり、隅にも置かず上席に座らせ、仲間に取り込んでしまうか。さもなくば、二度と蘇生できないよう心臓に杭を打ち込むかです。 最良なのは、ほとんど全面的に厚遇して歓心を買いながら、決定的なところにだけ杭を打ち込んでおくことでしょうか。

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