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輪読会(1) -ハワード『平和の創造』-

文献Michael Howard (2000) The Invention of Peace: Reflections on War and International Order (London: Profile Books)
開催2014月9月20日
文責日本海

はじめに

 

 以下に輪読会にて使用したテキストの意訳を記載。

 

Introduction

 

 戦争は人類と同様に古くから始まっている。しかし平和もまた創造されてきた。 これまでの歴史の結果から、人間の生まれつきの攻撃性を探求できるかどうかに関しては困難であろう。また、その攻撃性が希少な資源をめぐる必然だったかということも困難である。ルソーは人間が臆病であり、社会的関連性を構築していくうちに戦闘を好むようになり、そしてそのような関連性自体は、生き残るために必要だったと述べる。 カントの言葉を借りれば、「自己中心的な社会性」は、協調と紛争を同時に生み出したことになる。

 

 戦争よりも平和のほうが複雑である。このことをホッブスは的確にとらえていた。平和の分類として、ヨハン・ガルトゥングが提唱したネガティブ・ピース(戦争がない状態)とポジティブ・ピース(戦争がない状態にくわえて、衣食住がそろった状態)という二種がある。 この二種は、時代の中において入り違いがあり、作られては壊されてもきた。 思想家の中にはポジティブ・ピースを求める者もいたかもしれないが、政治的リーダーはおおむねネガティブ・ピースを目標にしてきた(200年くらいの間)。

 

 戦闘に長けたものは、勝ち続けることにより正統性を獲得していく。 その際、肉体的な強さを持ったものが優勢である。彼らは、自らの遺伝子を伝え、一つの時代、一つの王朝を築いていった。 彼らが持つ関心や態度が、文化、宗教、芸術等を決めていき、そして形成された社会における政治的な秩序をつくる。 そのさい、彼らが持つ宗教的な価値に依った制裁が、究極的な正統性を担保する。 これにより、国内において平和を提供し、戦争に際しては、その指揮を正しいものとした。 そして、戦争における成功が、よりその正統性を高めるのである。

 

 軍事エリートは、覇権の拡大にさいして効果的であり、その地位は、より偉大になっていった。方や戦士は、ノルマン人の支配の時代、スペインの大航海時代、帝国主義の時代を経て、その存在は消えていく。 彼らのルールは、宗教や文化、人種に由来する「道徳感情」にもとづいていたが、普遍的ではなかった。

 

 変化というものは、平和にとって脅威となり、敵である。長期の覇権を維持したオスマン帝国や中国の王朝の例をみると、安定性というものが平和における最も重要な条件となる。

 

 戦争は人々の心の中からはじまる。そして、これは平和も同様である。 多くの人々にとって平和とは、秩序や、基本的とされる事柄を手にすることであるが、マイノリティにとってはより積極的なものだった。なお、こうした考えや独立的な思考を持つ教育をうけた人々は、戦士社会においては聖職者階級に生まれるか、あるいは組み込まれてきた。そして、彼らはいずれにしろ既存の秩序の正統化に貢献しているが、同時に、彼らは平和を勝ち取られるものだと考え、既存の秩序に対する異議申し立てをおこなう層でもあった。

 

 我々は、秩序の提供者である戦士階級と、それに正統性を与えてきた知識人階級との共存を、8世から19世紀までのヨーロッパにおける進歩として観ることができる。 が、最終的には知識人階級から、これまでの共存を批判するものがあらわれることになる。 彼らは、戦争は逸脱であり、神聖な秩序に適うものではなくなってしまったという考えをもつ。よって平和とは、神聖な秩序ではなく、人間が自身の手で実践合理的に獲得してきた発明である。なお、この発明や創造の重要性や困難さは、平和の内容を作り変えていくことにある。そしてこれが、この本に主題を提供している。

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