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アメリカ海軍は敵のA2ADにどう対処するか?

掲載2015月1月11日
執筆H.Ross.Kawamura

本投稿は拙ブログ「グローバル・アメリカン政論」2014年12月28日より転載です。なお、原文を再編集したものは日本国際フォーラム「百花斎放」12月29日付け寄稿。

 アメリカの敵の間でのA2AD能力の急速な向上に鑑みて、米海軍には対抗手段によって国際航海と自らの海洋活動の自由を守る必要がある。現在、アメリカ海軍は中国やイランのような挑戦勢力から突きつけられる高度な対艦ミサイルの脅威に直面しているが、冷戦後の国防費削減がアメリカの艦隊防空能力の制約となっている。アメリカはその能力を再建し、いかなる挑戦者にも自らの海洋でも優位を脅かされてはならない。

 敵のA2ADの台頭は別に新しいことでもない。冷戦期にはソ連空軍がアメリカ海軍の優位に立ち向かおうと、Tu22バックファイアやTu19バジャーといった戦略爆撃機にキャリアー・キラー・ミサイルを搭載した。空母機動部隊をソ連の飽和攻撃(一つの攻撃目標に対し、一度に複数のミサイルを撃ち込むこと)から防衛するため、アメリカ海軍は制空と要撃が行なえる艦隊防空戦闘機の製造を模索した。海軍は強力なレーダーと長射程ミサイルを装備した戦闘機を要求した。それがF14トムキャットである。

 F14は敵の攻撃機とミサイルを艦隊から遠く離れた場所で撃墜できるというだけではない。A2ADに対抗するうえで、F14は強力なレーダーによって敵の攻撃機に発見される前に相手を発見できた。またこの戦闘機は同時に複数の標的に対して長射程のフェニックス空対空ミサイルを発射できたので、敵のキャリアー・キラーによる飽和攻撃を無力化できた。トムキャットは「ファースト・ルック、ファースト・ショット、ファースト・キル」のためにきわめて能力の高い艦隊防空戦闘機であった。以下のビデオを参照されたい。

 しかしソ連崩壊によってアメリカ艦隊への空からの脅威は当面消滅したものと考えられた。そのため議会は海軍に対してF14に代わってより低価格でマルチロールの要求にも応えられるFA18を採用するように要求してきた。アメリカ国民が油断しきって歴史からの休暇にあったのに対し、中国とイランは自らのモンロー・ドクトリンを掲げて自国の近隣海域の支配的地位を主張しようとする準備をすすめていた。当時はイージス艦が艦隊防空を担い、F14戦闘機部隊では能力過剰で維持費もかかりすぎると見られていた。しかしながら駆逐艦がどれほど先進技術の粋をこらしても敵の航空攻撃に対して脆弱なのは、フォークランド戦争でイギリスの駆逐艦シェフィールドがアルゼンチンのエグゾセ・ミサイルに撃沈されているのを見ればわかる。

 FA18ホーネットおよび同機発展型のスーパー・ホーネットはマルチロールで費用対効果も高い優秀な戦闘機ではある。アメリカの同盟国でもカナダ、オーストラリア、スペインなどでは空軍機のF15ではなく、こちらを採用している。しかしこの戦闘機は敵の飽和攻撃の迎撃には特化していない。またFA18はF14よりも戦闘行動半径が短く、飛行速度も遅い。アフガニスタン戦争ではF14がFA18の航続距離を超えて内陸奥深くのタリバンとアル・カイダを攻撃した。敵のA2AD能力が急速に進歩している現在、アメリカ海軍には信頼性のある迎撃機が必要で、敵のミサイルと攻撃機は空母機動部隊からできるだけ遠くで撃ち落とせることが望ましい。

 現在、海軍は空軍と共同でFXあるいはFAXXプロジェクトといった第6世代戦闘機の開発を推し進めている。それらの戦闘機は2030年にスーパー・ホーネットに代わって配備予定である。エンジン技術の向上により、航続距離も飛行能力も向上するだろう。しかし現在の予算制約によって海軍は軍事産業の諸社からの提案を断念する羽目に陥るかも知れない。フリーランス記者のデーブ・マドジャムダール氏は『ナショナル・インタレスト』誌への12月19日付けの投稿で「海軍はF35Cを新型のエンジンとミサイルによってアップグレードするかも知れない」と記している。しかし空軍のパイロット達はこの案に否定的である。ある者は「たとえ発展型になったとしてもF35では空対空戦闘能力でもSEADおよびDEAD(敵防空網制圧[suppression of enemy air defenses]および敵防空網破壊[destruction of enemy air defenses]:敵地攻撃の前に敵側のレーダー、防空指揮系統、防空基地を破壊ないし無力化すること。後者になると敵の対空ミサイル発射機も含めた防空能力を完全破壊すること。)でもF22に及ばない」と言う。またある者は「単発エンジンの戦闘機では双発エンジン機に比べてパワー不足は否めず、機動性も併記搭載量も低くなる」と言う。ここで思い出すべきは、F14は戦闘能力でも機動性でも空軍機のF15に対して遜色なかったことである。

 冷戦の終結がアメリカの敵の終結とはならなかった。相手は見せかけの平和の時期に爪を砥いでいた。アメリカが国防費の支出を渋るようなら、後の代価は大きくなる。アメリカの敵は自分達のA2AD能力によって米海軍が行動を阻まれると見れば、強気な態度に出かねない。他方で艦隊防空のためのプロジェクトを円滑に進めるためには不必要なコストの上昇と配備調達の遅延を抑えねばならない。ジョン・マケイン上院議員は来年より軍事委員会委員長に就任する見込みであり、軍事産業の経営とペンタゴン官僚組織の非効率性を厳しく批判している。アメリカ海軍が敵のA2ADから自らの艦隊を守るには、技術的問題以外にもこれほど多くの課題がある。

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